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ゼロ距離で撃てるか──海外派遣に備える自衛隊員の「腹ぎめ」



 自動小銃での射撃訓練で基本距離は300メートル。
 その距離で「的」を狙って撃つ。


 だが、市街地などを想定した訓練では、25メートル、10メートル、3メートル、ゼロ距離という至近距離がある。この場合、銃身の長い自動小銃だけでなく、拳銃も使用する。
 拳銃と自動小銃では取り扱い方も異なるが、そもそも至近距離の射撃訓練は300メートル距離のそれとはまったく意味が異なるという。


「つまり、相手が敵対者なのか、市民なのか。瞬時に識別し、さらに、撃つべきかどうかの判断をしなければいけない。判断を間違えれば、命に関わります。もし実戦で遭遇した場合、想定外はありえません。だから、その瞬間、小銃を落とした、拳銃が故障したといったケースも含め、ありとあらゆる状況を想定して訓練をやっています。この訓練は私たちの部隊では毎週行っていますが、正直、一番難しいものでもあります」


 海外派遣に備えた訓練について尋ねたところ、2014年にジブチに派遣されていた35歳の二等陸曹はそう言ってやや苦い笑みを浮かべた。

海外派遣の「腹ぎめ」とは


 水野が海外派遣に参加したのは、2014年夏、34歳のときだった。「ソマリア沖・アデン湾における海賊対処」の支援隊として、アフリカ北東部に位置するジブチ共和国に向かった。任務は海賊を監視する海上自衛隊の航空機P3C哨戒機を駐機場で警衛する仕事だった。


 日中50度という気温に、湿度も90%以上という高温多湿の環境。事前にOBたちから情報として聞いていても、体験してみるとその暑さは尋常ではなかったという。


「その気候の中、防弾チョッキをつけ、自動小銃を携行し、砂嵐のときにはゴーグルもつける。警衛は24時間勤務なので、当番のあとはみんな疲労困憊でした」

 ただし、ジブチの拠点は治安が悪いわけではなかった。


 もともと小国ながら政情は比較的安定しているうえ、近くには警備が強化された国際空港があり、その横にはアフリカ唯一の米軍基地キャンプ・レモニエ、そして旧宗主国のフランス軍も周辺に拠点を構える。警備体制は強力で、治安に関する危ない経験はなかった。


それでも現地にいる間、水野は“不測の事態”をつねに想定して任務に就いていたという。なぜかと問うと、敵対勢力による攻撃やテロといった事態は「どの程度の可能性」という比較の問題ではないと考えていたからだと答えた。そして、それ以上に重要なものもありますと言葉を継いだ。


「この仕事で重要なのは、“もしもの事態”に『腹ぎめ』できているかだと思うんです。いかなるときにも日の丸を背負っているという決意。その『腹ぎめ』がないと、海外派遣はできないのかなと」


 その「腹ぎめ」とは何かを尋ねようとしたところ、水野はこちらの目を見たままためらいなく切り出した。


「われわれが来ているのは警護の仕事であって、そのためであれば、自分の命を落としてでも、守る。何かあったら前面に、立つ。それが自分の仕事なのだと思います」

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